地球表面積の7割を占め、地球上の生命・生態系を支えている海洋の健康を守ることは、
プラネタリーヘルスに直結する重要事項です。
水産海洋学研究室では、地球惑星全体の中での海洋の役割を強く意識して、
海洋と地球システムを構成する地圏・生物(人間)圏などとの関わりを含めた、
より広い視座をもって教育研究を進めていきます。
長崎大学は,地球の健康のために貢献します(大学ホームページへ)
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」は、
人為起源による気候変化、影響、適応及び緩和方策について、科学的、技術的、
社会経済学的な見地から包括的な評価を行うために、1988 年に設立されました。
その組織の中で、第1作業部会では、気候システム及び気候変化の自然科学的根拠についての評価を行っています。
水産海洋学研究室の武田教授が見い出した珪藻類の栄養塩消費バランスと鉄欠乏の関係性(Nature 1998年)は、
IPCC第4~6評価報告書(2007~2021年)の計算に使用されている海洋モデルに組み込まれ、
将来予測の高度化に大きく貢献しています。
海洋の表層で植物プランクトンが行う光合成は、海洋生態系を支える有機物の生産に重要な役割を果たしています。
海洋の肥沃化、すなわち、不足している栄養素(窒素、リン、鉄など)を人為的に補うことで、
植物プランクトンの増殖を促進して、漁業生産を高めたり、
大気中の二酸化炭素を海洋に吸収させて地球温暖化を抑制したりすることができるかどうか、
国際的な議論が行われています。
水産海洋学研究室の武田教授らが中心となって北太平洋亜寒帯域で行ってきた海洋鉄散布実験や
フィールド観測と、
欧米の研究者などが他の海域で実施した同様の実験・観測結果などを通して得られた科学的知見は、
国連ユネスコ政府間海洋学委員会による「政策決定者向け海洋肥沃化の科学知見に関する報告書」として取りまとめられ、
各国政府の海洋関連施策の検討に活用されています。また、
ロンドン条約及びロンドン議定書(海洋汚染の防止に関する国際条約)の
海洋地球工学行為規制に関する改正(2013年)にも役立てられています。
海の健康については、国際環境NGOコンサベーション・インターナショナルが2012年から公表している
海洋健全度指数
(Ocean Health Index: OHI)という指標があります。
2019年の日本のスコアは平均点以下の66点で、
排他的経済水域(EEZ)をもつ221の国々の中では125位という低い順位になっています。
この指数の計算方法についての議論はいろいろとありますが、
漁業活動を含むNatural Productsに関するスコアが低いのが主な原因となっており、
その改善に向けた努力が強く求められています。
水産海洋学研究室の教育研究活動は、多面的に海洋と地球の健康を守り向上させる取り組みとして位置付け、
推進して行きます。また、この指数では評価されていない外洋(公海)の健全性を守っていくことも、
人類共通の課題として取り組むべきことだと考えています。